医療画像診断におけるAI活用の現状分析|放射線科領域での実践例と課題

医療画像診断におけるAI活用の現状分析|放射線科領域での実践例と課題

更新日:2025年12月17日

医療画像診断AIは急速に普及が進み、放射線科領域での実践例が蓄積されつつあります。2024年度の診療報酬改定でAI画像診断への加算が新設されるなど、制度面での後押しも進んでいます。本記事では、医療画像診断AIの現状と課題について調査・考察してみました。放射線科医や医療AI導入を検討される方の参考になれば幸いです。

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1. 医療画像診断AIの基礎と発展経緯

1.1 医療画像診断AIとは

医療画像診断AIとは、ディープラーニングなどの人工知能技術を用いてCT、MRI、X線などの医療画像を解析し、異常箇所の検出や疾患の診断を支援するシステムである。従来のコンピュータ支援診断(CAD)と異なり、深層学習により膨大な画像データから自動的に特徴を抽出し、高精度な病変検出を実現する点が特徴となっている。

ディープラーニングと従来型CADの違い
従来のCADは人間が定義した特徴量(エッジ、形状など)に基づいて判定を行っていた。一方、ディープラーニングを用いたAIは、大量の正常画像と異常画像を学習することで、AIが自ら画像の特徴を抽出し、人間が気づかないパターンも認識できるようになった。

1.2 制度面の発展経緯

日本国内における医療画像診断AIの制度的発展は、2019年に深層学習を活用したプログラム医療機器が初めて薬事承認されたことに始まる。その後、厚生労働省は保健医療分野AI開発加速コンソーシアムを設置し、画像診断支援を重点領域として位置づけた。2022年の診療報酬改定ではAI画像診断支援が画像診断管理加算3の算定要件に追加され、2024年度改定ではAIソフトウェア使用の画像診断に対する加算が新設された。PMDAも2024年7月にプログラム医療機器審査室を審査部に格上げし、審査体制を強化している。

医療画像診断AI発展の主要年表
2019年:深層学習活用プログラム医療機器の国内初承認
2022年:診療報酬改定でAI画像診断支援が加算要件に追加
2024年:AIソフトウェア使用画像診断への加算新設、PMDA審査部格上げ
2025年:EIRL総解析件数1,000万件突破、全国47都道府県で稼働

1.3 AIの診断支援分類

現在、医療画像診断AIは利用形態により3つの型に分類される。セカンドリーダー型は医師が先に読影し、その後AIの結果を参照する方式であり、現在薬事承認されている製品の大半がこの型に該当する。コンカレントリーダー型は医師とAIが同時に読影する方式であるが、承認製品はほとんど存在しない。ファーストリーダー型はAIが先に読影し医師がチェックする方式であり、現時点で薬事承認は得られていない。この段階的な分類は自動車の自動運転レベルに類似しており、完全にAIに読影を任せられるシステムは未だ確立されていない状況にある。

分類 運用方式 薬事承認状況
セカンドリーダー型 医師が読影 → AIの結果を参照 現在主流(大半が承認済)
コンカレントリーダー型 医師とAIが同時に読影 ほぼ未承認
ファーストリーダー型 AIが読影 → 医師がチェック 未承認

2. 放射線科領域での実践例と技術分析

2.1 主要な実用化領域

放射線科領域における医療画像診断AIは、複数の領域で実用化が進んでいる。肺結節検出では胸部CTやX線画像から肺がんが疑われる結節を検出するAIが稼働しており、健康診断施設での大量読影業務を支援している。脳動脈瘤検出では脳MRI画像から2mm以上の嚢状動脈瘤の候補点を検出し、くも膜下出血の予防に貢献している。大腸ポリープ検出では内視鏡検査においてリアルタイムで病変を検出し、音や画面表示で警告を行う。COVID-19肺炎判定では胸部CT画像から感染性肺炎の所見を3段階で評価し、パンデミック対応に活用された。

2.2 代表的製品の分析:EIRLシリーズ

エルピクセル社が提供するEIRL(エイル)シリーズは、国内で最も普及した医療画像診断支援AIの一つである。2019年10月に脳MRI画像から脳動脈瘤を検出するEIRL Brain Aneurysmの販売を開始して以来、頭部、胸部、大腸の3領域で9製品を展開している。2024年6月時点で全国47都道府県の医療機関に導入され、累計導入施設数は900を超えた。2025年2月末には総解析件数が1,000万件を突破し、特に健康診断施設での胸部X線検査において活用が進んでいる。

2.3 主要製品の比較

製品名 対象領域 検出対象 承認種別
EIRL Brain Aneurysm 脳MRI 脳動脈瘤(2mm以上) 承認
EIRL Chest XR 胸部X線 肺結節・肺炎所見 承認
EIRL Chest CT 胸部CT 肺結節様陰影 認証
EIRL Colon Polyp 大腸内視鏡 大腸ポリープ 承認
EndoBRAIN 大腸内視鏡 潰瘍性大腸炎 承認
AI-Rad Companion 胸部CT/脳MRI 複合解析 認証

2.4 診断精度に関する研究知見

医療画像診断AIの精度については複数の研究報告がある。Google社が開発したAIと医師の肺がん診断能力を比較した実験では、AIが医師よりもがん症例を5%多く検出し、偽陽性率を11%以上削減したとされる。一方、大阪公立大学の研究グループは骨軟部放射線領域においてChatGPT(GPT-4V)と放射線科医の診断精度を比較し、放射線診断専門医が最も高い精度を示し、次いで放射線科専攻医、GPT-4の順となることを報告している[1]。また、東北大学の研究では、AIによる診断が正しくてもその判断根拠となる注目領域が医学的に重要な領域と一致しない場合があることが指摘されており、AIの判断プロセスの信頼性検証が重要な課題として認識されている。

AIの診断支援効果
EIRL Brain Aneurysmを用いた読影では、医師単独の感度68.2%に対し、AIを併用した場合は77.2%まで向上したことが報告されている。AIは病変の見落としを防ぐセカンドリーダーとして有効に機能している。

3. 課題と今後の展望

3.1 現状の主要課題

医療画像診断AIの普及にあたっては複数の課題が存在する。第一に責任の所在の問題がある。AIが誤診に関与した場合の責任について、現状ではAIは診断支援ツールであり最終判断は医師が行うという整理がなされているが、議論は継続中である。第二に偽陽性・偽陰性の問題がある。現在のAIは依然として誤検出が存在し、単独で医師の読影を代替できる水準には達していない。第三に導入コストの問題がある。AI機器の導入には設備投資が必要であり、PACSとの連携費用も発生する。第四に複雑症例への対応限界がある。術後の変形した解剖構造や複雑な病態を持つ症例には現在のAIでは対応が困難である。

課題分類 内容 現状の対応
責任所在 誤診時の責任分担 最終判断は医師が行う整理
精度限界 偽陽性・偽陰性の存在 セカンドリーダー型での運用
コスト 導入・運用費用 診療報酬加算で部分的補填
複雑症例 術後・複雑病態への対応 適用範囲の限定
公開範囲 AI結果の参照者範囲設定 放射線科医限定が推奨

3.2 放射線科医の役割変化

AIの普及により放射線科医の役割は変化しつつある。定型的な読影業務はAIが担うことで、放射線科医はより高度な臨床判断やIVR(画像下治療)、他科との連携、治療方針決定への貢献といった業務に注力できるようになると期待されている。「AIを使う放射線科医が、AIを使わない放射線科医に取って代わる」という指摘があるように、AIを効果的に活用するスキルが今後の放射線科医に求められる能力となる。放射線科医の数自体が不足し都市部への偏在も見られる現状において、AIは地域医療格差の是正にも貢献する可能性がある。

3.3 今後の展望

医療画像診断AIは今後も発展が見込まれる。日本医学放射線学会をはじめとする学会は大規模な医療画像データベースの構築を進めており、ナショナルデータベースとしての活用によりAI開発の加速が期待される。また、転移学習など少量のデータからでも高精度な診断を可能にする技術の開発も進んでいる。予防医療の分野では健康診断での活用拡大が見込まれ、病気の早期発見と早期治療の促進に貢献することが期待されている。一方で、AI技術はあくまでも医療従事者を支援する役割であるという原則を念頭に、倫理面に配慮した利用方法の設計が求められる。

医療画像診断AI導入時の検討ポイント

  • 運用形態の明確化:セカンドリーダー型として運用し、最終判断は必ず医師が行う体制を確立する
  • 適用範囲の限定:複雑症例や術後症例など、AIの限界を理解した上で適用範囲を設定する
  • 安全管理体制の構築:画像人工知能安全精度管理責任者を配置し、学会認証を取得する
  • コスト試算の実施:導入費用とPACS連携費用、診療報酬加算を含めた費用対効果を検討する
  • 継続的な精度検証:導入後も定期的に精度検証を行い、必要に応じてアップデートを実施する
参考・免責事項
本記事は2025年12月17日時点の情報に基づいています。医療機器の導入や診療に関する専門的な判断は、医療従事者や専門家にご相談ください。

[1] 大阪公立大学「画像診断に生成AIは有用か?骨軟部放射線領域で、ChatGPTと放射線科医の診断精度を比較」European Radiology, 2024