今日の数学|ベイズの定理
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今日の数学|ベイズの定理
更新日:2025年12月22日
「検査で陽性だったけど、本当に病気なの?」という素朴な疑問から、AIの根幹を支える数学まで繋がる話を調査・考察してみました。数式が苦手な方も、ゆっくり読めば大丈夫です。参考になれば幸いです。
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1. 今日の問題
問題
ある病気は100人に1人がかかる。この病気の検査は優秀で、病気の人を95%の確率で「陽性」と判定できる。ただし、健康な人も10%の確率で間違えて「陽性」と出てしまう。あなたが検査を受けて「陽性」と出た。実際に病気である確率は?
ある病気は100人に1人がかかる。この病気の検査は優秀で、病気の人を95%の確率で「陽性」と判定できる。ただし、健康な人も10%の確率で間違えて「陽性」と出てしまう。あなたが検査を受けて「陽性」と出た。実際に病気である確率は?
直感的には「95%くらい?」と思うかもしれない。しかし、答えは驚くほど低い。
ベイズの定理
\[ P(\text{病気}|\text{陽性}) = \frac{P(\text{陽性}|\text{病気}) \times P(\text{病気})}{P(\text{陽性})} \]
\[ P(\text{病気}|\text{陽性}) = \frac{P(\text{陽性}|\text{病気}) \times P(\text{病気})}{P(\text{陽性})} \]
この式は「陽性が出たとき、本当に病気である確率」を求める公式である。縦棒「|」は「〜のとき」と読む。
解答(一歩ずつ)
Step 1:情報を整理する
\[ \begin{align} P(\text{病気}) &= 0.01 \quad \text{(100人に1人)} \\ P(\text{陽性}|\text{病気}) &= 0.95 \quad \text{(病気なら95%で陽性)} \\ P(\text{陽性}|\text{健康}) &= 0.10 \quad \text{(健康でも10%で陽性)} \end{align} \]
Step 2:全体で陽性が出る確率を求める
1000人を検査したと想像してみよう。
病気の人:1000 × 0.01 = 10人 → うち陽性:10 × 0.95 = 9.5人
健康な人:1000 × 0.99 = 990人 → うち陽性:990 × 0.10 = 99人
合計の陽性:9.5 + 99 = 108.5人
Step 3:陽性の中で本当に病気の人の割合
\[ P(\text{病気}|\text{陽性}) = \frac{9.5}{108.5} \approx 0.088 \]
答え:約8.8%(10人に1人以下)
Step 1:情報を整理する
\[ \begin{align} P(\text{病気}) &= 0.01 \quad \text{(100人に1人)} \\ P(\text{陽性}|\text{病気}) &= 0.95 \quad \text{(病気なら95%で陽性)} \\ P(\text{陽性}|\text{健康}) &= 0.10 \quad \text{(健康でも10%で陽性)} \end{align} \]
Step 2:全体で陽性が出る確率を求める
1000人を検査したと想像してみよう。
病気の人:1000 × 0.01 = 10人 → うち陽性:10 × 0.95 = 9.5人
健康な人:1000 × 0.99 = 990人 → うち陽性:990 × 0.10 = 99人
合計の陽性:9.5 + 99 = 108.5人
Step 3:陽性の中で本当に病気の人の割合
\[ P(\text{病気}|\text{陽性}) = \frac{9.5}{108.5} \approx 0.088 \]
答え:約8.8%(10人に1人以下)
検査精度95%でも、実際に病気である確率は10%未満。なぜか?「そもそも病気の人が少ない」からである。健康な人の誤判定が、本当の病気の人を圧倒してしまう。
2. 定理の意味と歴史
歴史
1763年:イギリスの牧師トーマス・ベイズの遺稿が発表される
1812年:フランスの数学者ラプラスが独立に発見、体系化
20世紀:統計学の主流派と激しい論争
2000年代〜:AI・機械学習で「ベイズ復興」
1763年:イギリスの牧師トーマス・ベイズの遺稿が発表される
1812年:フランスの数学者ラプラスが独立に発見、体系化
20世紀:統計学の主流派と激しい論争
2000年代〜:AI・機械学習で「ベイズ復興」
ベイズは牧師だった。彼が何を計算しようとしていたかは諸説あるが、「神の存在確率」を考えていたという説もある。皮肉なことに、この定理は現代ではAIの基礎となっている。
日常語で言うと
「新しい情報を得たら、考えを更新しなさい」ということ。最初の思い込み(事前確率)に固執せず、証拠(データ)に応じて判断を修正する。これが合理的な思考法であり、AIの学習プロセスでもある。
「新しい情報を得たら、考えを更新しなさい」ということ。最初の思い込み(事前確率)に固執せず、証拠(データ)に応じて判断を修正する。これが合理的な思考法であり、AIの学習プロセスでもある。
| 用語 | 日常語 | 今回の例 |
|---|---|---|
| 事前確率 | 最初の予想 | 病気は100人に1人(1%) |
| 尤度(ゆうど) | 証拠の確からしさ | 病気なら95%で陽性が出る |
| 事後確率 | 証拠を見た後の判断 | 陽性でも病気は8.8% |
3. 日常とAIへの応用
身近な例
- 迷惑メール判定:「無料」「当選」という単語があるとスパム確率が上がる
- 天気予報:雲の動きという「証拠」で雨の確率を更新
- 医療診断:症状と検査を組み合わせて病気の確率を計算
- ChatGPTなどのAI:前の単語から次の単語の確率を計算
実は私たちも無意識にベイズ的思考をしている。たとえば、普段遅刻しない友人が遅刻したとき、「電車が遅れたのかな」と思う。これは「この友人は時間を守る(事前確率が高い)」という信念があるからである。
"When the facts change, I change my mind. What do you do, sir?"
(事実が変われば、私は考えを変える。あなたはどうするかね?)
— ジョン・メイナード・ケインズ(経済学者)
ベイズの定理は、この姿勢を数学的に正当化している。新しい証拠を得たら、考えを更新する。それが科学的な態度であり、AIの学習原理でもある。
参考・免責事項
本記事は2025年12月時点の情報に基づき、一般的な教養としての数学解説を目的として作成されています。記事中の医療検査に関する数値は説明のための仮想的な例であり、実際の検査精度や有病率とは異なります。医療に関する判断は必ず医師等の専門家にご相談ください。本記事の内容に基づいて行われた判断・行動について、筆者は一切の責任を負いかねます。
本記事は2025年12月時点の情報に基づき、一般的な教養としての数学解説を目的として作成されています。記事中の医療検査に関する数値は説明のための仮想的な例であり、実際の検査精度や有病率とは異なります。医療に関する判断は必ず医師等の専門家にご相談ください。本記事の内容に基づいて行われた判断・行動について、筆者は一切の責任を負いかねます。
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