野外調査法

更新日:2025年1月2日

淀川流域植物調査の標準化された野外調査手法を解説。植生調査、個体群調査、フェノロジー観察の実践的プロトコルを紹介する。

1. 調査の準備

野外調査の成否は事前準備で決まる。目的の明確化、調査地の下調べ、必要機材の準備を入念に行う。

1.1 調査計画の立案

検討項目 内容
調査目的 フロラ調査、植生調査、特定種モニタリング等
調査範囲 地図上での範囲設定、面積の見積もり
調査時期 対象種の生育ステージ、季節変動を考慮
所要時間 調査面積、詳細度から見積もり
必要人員 調査規模、安全確保を考慮

1.2 携行品チェックリスト

基本装備

  • 記録用具: 野帳、筆記具(鉛筆推奨)、クリップボード
  • 観察用具: ルーペ(10〜20倍)、双眼鏡
  • 測定用具: メジャー(50m)、巻尺(2m)、ノギス
  • 撮影用具: カメラ、スケール、GPSまたはスマートフォン
  • 採集用具: 剪定鋏、ポリ袋、新聞紙、採集許可証
  • 地図資料: 地形図、航空写真、過去の調査データ

安全装備

  • 服装: 長袖・長ズボン、帽子、滑りにくい靴
  • 保護具: 手袋、虫除け、日焼け止め
  • 緊急用品: 携帯電話、救急キット、飲料水
  • 身分証明: 調査許可証、身分証

1.3 河川敷調査の注意事項

安全上の注意
河川敷は増水時に危険。気象情報を確認し、上流のダム放流情報にも注意する。単独調査は避け、緊急連絡先を共有しておく。
  • 増水リスク: 天気予報確認、逃げ道の把握
  • 軟弱地盤: 湿地帯での足元注意
  • 有害生物: マムシ、スズメバチ、ウルシ類への注意
  • 熱中症: 夏季は休憩・水分補給を頻繁に

2. 植生調査法

植生調査は植物群集の構造と組成を定量的に把握する手法である。目的に応じて適切な方法を選択する。

2.1 コドラート法

一定面積の方形区(コドラート)内の植物を記録する最も基本的な方法。

植生タイプ 標準コドラートサイズ
草本群落 1m × 1m 〜 2m × 2m
低木群落 5m × 5m
高木林 10m × 10m 〜 20m × 20m
河川敷草地 2m × 2m(均質な場合1m × 1m)

2.2 被度・群度の記録

ブラウン-ブランケ法による被度階級:

階級 被度 説明
5 75〜100% 非常に多い
4 50〜75% 多い
3 25〜50% やや多い
2 5〜25% 少ない
1 1〜5% わずか
+ <1% まれ

2.3 ライントランセクト法

線上に沿って植生を記録する方法。環境傾度に沿った植生変化の把握に有効。

  • 設置: 環境傾度に直交するようにラインを設置
  • 記録: ライン上の各点で接触する植物種を記録
  • 間隔: 通常10〜50cm間隔で記録
  • 用途: 水辺〜陸域の移行帯、微地形に沿った変化

2.4 ベルトトランセクト法

帯状の調査区を設置し、連続的な植生変化を記録する方法。河川横断方向の植生帯構造の把握に適する。

淀川での適用例
水際から堤防法面まで幅2mのベルトを設置し、5m区間ごとに出現種と被度を記録する。これにより水位変動に対応した植生帯配列が明らかになる。

3. 個体群調査法

特定種の個体数、分布、齢構成などを調べる調査法。希少種のモニタリングや外来種の侵入状況把握に用いる。

3.1 全数カウント

調査範囲内の対象種全個体を数える方法。個体数が少ない希少種に適用。

  • 適用条件: 個体数100以下、識別容易な種
  • 記録項目: 個体数、位置(GPS)、生育ステージ
  • 注意点: 見落としを防ぐため複数回カウント

3.2 サンプリング法

広範囲・多個体の場合はサンプリングにより個体数を推定する。

方法 概要 適用場面
ランダムコドラート 無作為配置のコドラートで密度推定 均質な群落
系統抽出 一定間隔でサンプル配置 広域調査
層化抽出 環境タイプ別にサンプリング 不均質な環境
点−四分法 点から最近接個体までの距離 樹木個体群

3.3 サイズ構造・齢構成

個体群の持続性を評価するため、サイズや齢の分布を調べる。

  • 草本: 株径、草丈、葉数、花茎数
  • 木本: 胸高直径(DBH)、樹高、樹齢
  • 評価: 若齢個体の有無で更新状況を判断

3.4 標識再捕法(植物への応用)

多年生草本の個体追跡に応用可能。タグ付けにより同一個体の経年変化を追跡する。

タグ付けの方法

  • 材料: アルミタグ、プラスチックタグ、針金
  • 設置: 根際や近傍の地面に固定
  • 記録: タグ番号、位置、設置日
  • 注意: 植物を傷つけない、紛失防止

4. フェノロジー観察

生物季節(フェノロジー)の観察は、植物の年間生活史と環境変動の関係を理解する基礎となる。

4.1 観察項目

生活史段階 観察項目 記録方法
発芽・展葉 初発芽日、展葉開始日 日付記録
開花 開花開始、満開、開花終了 日付、開花率
結実 結実開始、完熟、種子散布 日付、結実率
紅葉・落葉 紅葉開始、落葉完了 日付、紅葉率
休眠 地上部枯死、休眠芽形成 日付

4.2 開花フェノロジーの記録

定点観測による開花状況の定量的記録法:

  • 観測頻度: 開花期は週1〜2回、その他は月1回
  • 記録方法: 開花個体率、花数、開花ステージ
  • 標本個体: 10〜30個体を固定観測
開花ステージの区分例
0: 蕾なし、1: 蕾あり、2: 開花開始(1〜10%)、3: 開花中(11〜50%)、4: 満開(51〜90%)、5: 開花終期(91〜99%)、6: 開花終了

4.3 気象データとの対応

フェノロジーデータは気象データと組み合わせて解析することで、環境応答の理解が深まる。

  • 積算温度: 発芽・開花の予測に有効
  • 日長: 短日・長日植物の開花制御
  • 降水量: 乾季・雨季のある環境での生活史

5. 記録と整理

野外で得たデータは適切に記録・整理して初めて価値を持つ。記録の標準化と保存が重要である。

5.1 野帳の記録事項

必須記録項目

  • 基本情報: 日付、時刻、天候、調査者名
  • 位置情報: 地名、GPS座標、標高
  • 環境情報: 地形、土壌、水分条件、人為的影響
  • 植生情報: 群落タイプ、優占種、階層構造
  • 種データ: 種名、被度、個体数、生育状況
  • 特記事項: 異常、気づき、次回への申し送り

5.2 写真記録

撮影対象 撮影のポイント
景観・環境 調査地の全景、周辺環境
群落 コドラート設置状況、植生の外観
種の記録 全体、花、葉、果実(スケール入り)
特記事項 病害虫、食痕、異常個体

5.3 データの整理・保存

  • 当日中: 野帳の判読確認、不明点の補記
  • 1週間以内: デジタルデータ化、写真の整理・命名
  • バックアップ: 複数媒体・場所での保存
  • メタデータ: 調査方法、データ形式の記録

5.4 データ共有と公開

調査データの共有は科学の発展と保全に貢献する。

  • 市民科学プラットフォーム: iNaturalist等への投稿
  • 学術データベース: GBIF、S-Netへのデータ提供
  • 報告書: 調査報告書の作成と公開
  • 注意点: 希少種の詳細位置情報は非公開に
参考文献・免責事項
本コンテンツは2025年1月時点の情報に基づいて作成されている。野外調査は安全を最優先とし、各種法令・規則を遵守して実施されたい。